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ジョゼと虎と魚たち、メゾン・ド・ヒミコ [映画]

京都みなみ会館で犬童一心監督の特集。「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「黄色い涙」の3作品が、週替わりで。
「黄色い涙」は観に行けなかったが、「ジョゼ虎」「メゾンドヒミコ」は仕事を強引に定時で切り上げて駆け込みました。そして映画館の暗闇の中で浸りました。2本ともDVD持ってますが、映画館でこの2本を再び拝見することができて、まさに至福の時間。

結局観に行けなかった「黄色い涙」は、私は嵐目当てではなくて音楽を担当したSAKEROCK目当てで観たかったけど、チケットが取りづらかったらしい。さすがARASHIって思った。「黄色い涙」もいい映画だったと記憶してるけど、個人的な思い入れでは「ジョゼ虎」「メゾンドヒミコ」がダントツすぎて。

犬童一心と渡辺あやの黄金コンビによる、ゼロ年代の日本映画を語る上で欠かせないと思われるこの2作品。「ジョゼ虎」は当時のミニシアターブームの一翼を担った、日本の映画史上の重要作品。映画としての完成度という点では更にその上を行く気がする「メゾンドヒミコ」。ちなみに犬童監督と渡辺あや脚本の作品はこの2作だけである。この2作品を残してくれたからこそ、この二人を黄金コンビと勝手に呼びたくなる。

健康優良児の大学生男子と口の悪い身体障害者の女の子の間の恋を描いた正統派青春恋愛映画の「ジョゼと虎と魚たち」。主演の妻夫木聡と池脇千鶴はまさに当たり役で、二人にとって本作はキャリア代表作の一つなのは間違いない。そして本作は上野樹里のデビュー作でもあり(「スウィング・ガールズ」より前。「スウィング・ガールズ」では高校生の役だけど、本作では大学生の役。)、他にも新井浩文や江口のりこが、本作ではフレッシュに輝いている。

観たの超久し振りですが、改めて観ると、好きなシーン目白押しで、二人が偶然遭遇するシーン辺りから、もう何もかもが感無量。本作の映画的ハイライトである二人のラブシーンはもちろん、映画のメインイメージにもなった二人の疾走シーン(世界の扉が開くこの感覚!)、切なさに胸が締め付けられる熱帯魚のシーン・・・ほかにも色々。久々に観た感のノスタルジーもあり、めちゃくちゃ浸ってしまいましたよ。何よりも、押し入れに佇む、小憎らしくも可愛いジョゼの姿に、もう一度スクリーンで会えたことも嬉しかった。坂の上で池脇千鶴と上野樹里が対峙する場面も大好きな場面の一つ。

恒夫の回想のモノローグから始まる本作の語りの基本構造は、二度見、三度見することで、青春映画的な効果がキリキリと増大する仕掛けになっている。明るい自然光線の多用による映画の全体的な色彩設計もまた、青春映画として効果的。そして流れてくる、くるり「ハイウェイ」のイントロ・・・タイミングが完璧だ。最高。それと、本作において議論の対象となった恒夫の涙。その意味が今までピンとこなかったけど、今回は何となく合点が行った。

家族を捨てたゲイの父を憎む娘と、余命いくばくもない老いた父と、父の愛人の若い男。
海岸沿いに位置するゲイ専門の老人ホームを舞台にしたヒューマンドラマの「メゾン・ド・ヒミコ」。今風に言えばLGBT系ということになりますが、当時はまだそんなジャンル名称は無かったと思う。本作も、観るの久しぶり。あらためて、本当に傑作やなあ、としみじみ浸りました。

ブサカワ女子(もちろんそういうメイクで)を好演した柴咲コウも、浮世離れしたヒミコを演じた田中泯も良いのですが、本作のオダギリジョーがちょっと有り得ないほど色っぽい。同性から見ても。そしてそんなオダジョーと対極的、というかある意味で表裏な存在として配置される西島秀俊も印象強し。ゲイの老人たちがまた、一人一人キャラ立ちしていて、非常にいい仕事してます。

映画の主な舞台は、一本道をバスに揺られてやがて辿り着く海岸沿いの、ゲイ専門の老人ホーム。六本木のゲイバーの伝説的なママだったヒミコが、引退後に海岸沿いのラブホテルを買い取ってゲイ専門老人ホームに改装した、という設定。そこはある種のサンクチュアリであり、入所者たちにとって世間と時間から隔絶されたシェルターであり、その瀟洒な建物の外にはただひたすら海と空が広がっていて、彼岸に近い異界感すら漂っている。メランコリックな本作のトーンを決定づけているのはこの舞台装置だと思う。もう一つ重要な要素が細野晴臣による音楽で、チルアウト感が絶妙です。

老いと孤独、性と死、聖と俗。土砂降りの雨と、燦燦と輝く青空。唐突なアニメーション、奇跡的な束の間のダンスフロア。様々なモチーフが溶け合いながら、簡単に折り合わない/なれ合わない登場人物たちの群像劇が、そして同性愛者の老人たちとの交流を通じて成長していく主人公の物語が海のそばで展開されていく。ビターで優しい、犬童監督の最高傑作だと思います。


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