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ジョジョ・ラビット、リチャード・ジュエル [映画]

今年に入ってからの劇場公開作品が怒涛の傑作ラッシュで、充実の一ヶ月間。そして、2月に入って、あれよあれよと「パラサイト」がオスカーを取っちゃいました。

「パラサイト」が受賞。これはもう一大事です。非アメリカの、いや非西洋圏の映画が米アカデミー賞のトップを取るのは、これまで到底考えられなかったこと。映画史において革命的な事件と言っていいのでは。しかもそれがポン・ジュノの作品っていうのが、シネフィルにとっては本当に本当に嬉しい話で。
ただの「いい映画」という枠内に到底収まらない猛毒を孕んだ社会派ブラックコメディの「パラサイト」は、あんまり映画を観ない人を、映画のディープサイドに引きずり込むポテンシャルを秘めていると思う。

そんな「パラサイト」だけでなく、「フォード vs フェラーリ」「ナイブズアウト」「1917」などなど、オスカー関連作品が大充実な、この1−2ヶ月の公開ラッシュでした。

そして、1月に見た、以下の2作品も。

「ジョジョ・ラビット」
冒頭、これ一体どこの国の映画? いつの時代? ひょっとして現代の英語圏の話なん?と当惑させられた。普通に流暢な英語を話す登場人物達、びっくりさせられるほど大音量で鳴り響くビートルズ「抱きしめたい」、戦時下特有の重苦しい雰囲気を(一見)排除したポップな作り。あらゆる点で型破りなナチス映画、それが今年の早くも個人的ベストワン映画の最有力候補の本作です。

弱虫だけどナチスに憧れる可愛い男の子が主人公。彼の一番の友達はアドルフ(ヒトラー)、ただし想像上の。彼を励まし、慰め、認めてくれる、愉快ですっごいイイヤツ、それが彼のヒーロー、アドルフ・ヒトラー兄貴なんである。

このヒトラーをファニーに演じているのが、監督のタイカ・ワイティティ本人であることを、鑑賞後に購入したパンフレットで知った。人類の歴史上最大の悪人と言っていいヒトラーを、こんなオモシロキャラとして描くことは、おそらく前代未聞。ハリウッドにおける一種のタブーを本作は大胆な形で破っている。しかも一見破天荒なようでいて、実は誠実な映画表現でもある気もしていて、それは当時のドイツの大多数の男の子に取っては、おそらくヒトラー総統ってそんな存在だったのでは、と思ったり。つまりその頃の男の子にとっての、あるべき男性像、偶像としてのヒトラー。そんな歴史の見方もあるということを実は提示しているのが本作である。

やがてボーイ・ミーツ・ガール的な展開から、この男の子の小学生男子的世界観は徐々に変容していく。実に鮮やかで見事な本作のストーリーテリング。それにしてもこの男の子を演じた子役の子、本当に巧い。完全に一流のコメディアクターだ。多分、相当頭がいい子なんだと思う。

そして最高なのが、主人公の母親を演じるスカーレット・ヨハンソン、そして鬼軍曹的な役のサム・ロックウェル。この二人がやり合う(まあ一方的なんだけど)シーンが最高で、他にもこの二人の出演シーンはすべて必見。スカーレット・ヨハンソンは、本作と「マリッジ・ストーリー」で、完全に女優として更に一個上のステージに上った気がする。サム・ロックウェルについては、とにかく一言だけ。「最高」。それだけ。

個人的評価 5点/5点満点

「リチャード・ジュエル」
毎年1本新作映画を発表するイーストウッド、しかも毎回毎回、合格点的なレベルを大きく超えた作品を上梓する人。本当に凄い。89歳ですよ。何というか、もうナンバーワンでいいんじゃないですか? 世界中の現役監督の中で。

日本人にとっては全く馴染のないリチャード・ジュエルという実在の人物を描く本作。イーストウッドの作品系譜の中では、「実話系」「アメリカンヒーロー系」として位置付けされるべき作品。アトランタの爆破テロを食い止めた一般市民の男性が、マスコミとFBIによってテロの容疑者に仕立てられていく話。

主人公のリチャード・ジュエルを演じるのが、「アイ、トーニャ」の中で一際光っていた、誇大妄想ニート男を演じたポール・ウォルター・ハウザー。イーストウッドの映画の主役って大抜擢である。映画のパンフに本物のリチャード・ジュエルの写真が掲載されているのですが、本当にそっくりさんなのだ。でも見た目だけじゃなくて、純粋な正義感から英雄的行為を行い、その事によって不当に貶められていく1人の生真面目な市民の実像を抜群の説得力で演じている。

そして、そんな可哀そうな主人公を助ける弁護士を演じるのが、我らがサム・ロックウェルである。狡猾なFBIと堂々と渡り合う海千山千な弁護士を、眼鏡姿で知的かつ熱く演じてます。「スリービルボード」や「ジョジョ・ラビット」のようなエキセントリックな役だけでなく、今回のようなノーマルに多少の毛が生えた程度の役もバッチリ。健全な職業倫理を体現し、義侠心から公権力に立ち向かっていくという、いかにもイーストウッド的な現代アメリカンヒーロー像を好演。本作におけるもう1人のヒーローである主人公との間で育まれる友情と共感がさらりと描かれるのも、実にいい塩梅である。

あとは、主人公の母親役のキャシー・ベイツがとにかく素晴らしいのと、いつものイーストウッドな、寡黙にして雄弁な光と影の映像美を本作でも心ゆくまで満喫できるのですが、ともかく本作は二人の市井のアメリカンヒーローを並べて描くことで、真のアメリカの男とは何かを語る、イーストウッド節炸裂の1本です。ただ、本作におけるイーストウッドのメッセージは、いつになく直球。心底感動したのはそこ。

個人的評価 5点/5点満点

というわけで、サム・ロックウェルつながりの2本でした。
それと両方とも映画パンフの出来が良い。配給会社のコダワリと愛を感じる。


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