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坂道のアポロン、ちはやふる 結び  [映画]

言わずと知れた人気コミックの映画化ですが、両方とも青春映画としての完成度の高さ、何よりも渦巻く熱気に大満足。若い俳優たちの快演・好演が本当にアツく、そんな彼らの結束感が映画館の空間全体に熱気として広がっていく感覚すらあった。
監督は三木孝浩と小泉徳宏だった。すっかり青春恋愛映画の名手である二人。そんな二人にとっても、それぞれ会心の一作だったのでは。

「坂道のアポロン」
主演の3人が3人とも本当に良いのだけど、中でもアポロン(太陽神)的存在を演じる中川大志のカリスマ性。古風な小松菜奈もちょっと新鮮で素敵。主演の3人以外では、ディーン・フジオカはまさにぴったりのハマり役と言えました。

1970年代の佐世保を舞台にした、高校生3人の友情と恋とジャズの物語。70年代ということで、恋愛感情の機微が奥ゆかしくて繊細。そして最大の見せ場であるジャズの演奏シーンが最高の出来で、特にクライマックスのセッションシーンは、まさに映画館で見てこそ/聴いてこそな映画体験。三木監督と言えば「ソラニン」でのラストのライブシーンもグッとさせられたなあ。

個人的評価 4.5点/5点満点


「ちはやふる 結び」
素晴らしい出来だった前2作と同じキャスト陣ということもあって、観る前から期待感大だったんですが、結果的には期待以上。前作から順調にキャリアアップを重ねている若い彼らの勢いが、お互いに相乗効果を生んでいる感じすらあった。中でも、この完結篇における実質主役的ポジションの野村周平が、前作と比較しても、格段にいいと思った。あと広瀬すずは、本作で見せるダイナミックな動きや表情が魅力的で、こういう役をやらせたら本当にピカイチである。去年の「チアダン」もそうだったけど。

新入生として本作から新加入している人達もちゃんと物語の中で生きていて良かったし、もう一人の新加入キャスト、競技かるたの王者(そして変人)役の賀来賢人が、圧倒的な存在感で良い。前作から引き続きの松岡茉優も、アクの強いかるたクイーン役として抜群。

このキャスト陣をまとめながら、友情と恋と成長の正統派青春群像劇として仕上げてきた小泉監督はさすが。テン年代を代表するスポ根部活映画トリロジーとなった本シリーズの、有終の美を飾る見事な会心作。

個人的評価 5点/5点満点

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ナチュラル・ウーマン、笑う故郷 [映画]

南米映画の2本。南米だからマジックレアリスム的、って形容してしまうのもかなり安直な気はしますが(だってもはや南米の専売特許ではない)、マジックレアリスム的な感覚が不意に入り込んでくる語り口が光る2本でした。

「ナチュラル・ウーマン」
チリのサンディエゴを舞台にした映画。恋人の死がきっかけで差別に直面するトランスジェンダーの女性の姿を描いた、いわゆるLGBT映画。主人公のトランスジェンダーを演じている女優さんが本物のトランスジェンダーなのですが、この女優さんが実に魅力的。演技も抜群なんだけど、何よりも、きれいな目に魅了される。

映画のタイトルは、アレサ・フランクリンの有名なYou make me feel like a natural woman、というラインからそのまま来ており、劇中でもこの歌が使われてますが、トランスジェンダーの主人公がこの歌詞を歌うことによって否応無く立ち昇るブルース性は、LGBT映画の本質的なテーマそのものと言っていいと思う。この女優さん、ダニエラ・ベガが素晴らしいのは、一瞬の表情、視線、仕草なんかで、主人公の哀しみ、怒り、タフネスをスクリーン上に文字通り体現してみせている点にある。彼女の演技が絶賛されているのは非常に頷ける。

ただ、この映画は決して重いだけの映画ではなくて、それは茶目っ気を失わない主人公の造形と、自然光が眩しい映像設計によるもの。そして時折インサートされるマジック・レアリスム的映像手法がなんとも絶妙なんである。
主人公が夜のクラブを徘徊するシーンがあるけれど、そのシーンの音響が抜群にかっこいい。後で知ったが音楽を担当したのはマシュー・ハーバート! それ知って俄然サントラ欲しくなった。

個人的評価 5点/5点満点


「笑う故郷」
これはアルゼンチンの片田舎を舞台にした映画。若い時に故郷を離れてスペインに渡り、作家として大成功を納めた男が、数十年ぶりに帰郷したことで巻き起こる悲喜劇。まあ、社会派コメディということになるのだろうか。

ノーベル文学賞を受賞し、大作家の地位を手にした主人公。悠々自適の生活を過ごしているように見えて、実はすっかり書けなくなってしまっていた。そんな主人公の元に故郷の市長(全然面識無い)から講演会のオファーが届き、気まぐれで招待を受けることを決める。

というわけで、世界的セレブとなって凱旋帰郷を果たす主人公と、そんな主人公を迎える田舎の人々。主人公を温かく尊敬の念を持って出迎える人々がいれば、打算から主人公に近づく者もいて、まあ大多数の人たちは単なる興味本位である。幼馴染の旧友や昔のガールフレンドとも再会を果たす主人公。とにかく懐かしい故郷で束の間の気分転換、となるはずが、徐々に主人公の周りで軋轢が生まれていく。

都会的知識人の無自覚な高慢と、地方在住者の野卑や鬱屈。その対比が徐々に両者の緊張関係を高めていくストーリー展開。本作も自然光をふんだんに取り入れた映像設計が美しい。その分、田舎の闇も深いカンジですが・・・。クライマックスはもはやスリラーと言ってよい。抑制されたマジックレアリスム的感性も感じることができて面白かった。

個人的評価 4.5点/5点満点


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寺尾紗穂 @ 清谷寺 2018-03-04 [音楽]

この日は午前中に橿原方面に用事があったので、ついでに足を延ばして吉野のお寺で真昼の寺尾紗穂さんのコンサートを観に行った。会場は吉野町の清谷寺。

この日はそれまでの寒さがウソのような小春日和の晴天。しかしそれはこの時季においては、完璧な花粉日和である事を意味しており、つまり銃弾が飛び交う戦場の真っ只中に飛び込むような覚悟を決めて向かう必要があった。いまのこの時季、吉野はスギ花粉地獄なのである。

折角吉野まで行くのだから、と、かねてより気になっていた吉野の超有名な秘境ラーメン「ラーメン河」(この店名のネーミングセンスは抜群だと思う)に初挑戦しようとするも、お店に着いた午後1時前、お店の前には順番待ちの人達、そして閉店を告げる無情の立看板。つまり本日分ソールドアウト! 売り切れタイミング早いなあ〜。仕方がないので退散した。結果、私の中で秘境感は倍増した。

さて、近場の茶店で昼食を済ませ、i-phoneのナビ機能を頼りに何とか清谷寺に到着。
13:30開演のこの日、駐車場に車を停めて外に出ると、頭上からは一番手のMANAMA x iki yol のエキゾチックなインストナンバーが良い音で聞こえていた。スーフィズムの宗教音楽やイベリア半島の民族音楽やギリシャの民族音楽をベースにした生演奏が、クラブで演奏されていてもおかしくないような抜群のサウンドシステムで鳴らされていて、しかもそのロケーションが吉野の山に四方を囲まれた、高台に位置するお寺のお堂。しかも真昼間。 この音と場所のミスマッチさに若干クラクラきた。

会場内には、移動本屋さんと、一軒だけだったけどドリンク/フードの出店もあって、軽くフェス気分。小春日和とは言っても時間が下がると少し肌寒く、暖かいコーヒーとお汁粉は非常に美味だった。ボリューミーな清谷寺コロッケは完売で食べること叶わず。客層としては、こんな山奥まで来る熱心なファン、だいたいオシャレでフェス慣れしてそうな人達。中には子連れファミリーも数組いて、小さき子供達は演奏中にも関らず会場内を自由にうろついている。一方で、そんな音楽ファンとは少し毛色の違う人達もいて、多分地元の人達だろう。

二番手は御所市在住のアーティスト、桶田知道という青年。電子音楽をバックトラックにギターロック的ポップソングを歌うシンガーソングライター。まだ作りかけの新曲、と言って歌い始めたギター弾き語りの曲が、この人の本質をよく語っているような気がした。

そして本日の主賓である寺尾紗穂さんは、ピアノ弾き語りの二部構成コンサート。「立つことと座ること」から始まった第一部では、折坂悠太さんの曲や、タイトルだけでインパクト抜群、けどそれ以上にその歌詞の見事さに胸打たれる「骨壷」などで、ワタシを含むオーディエンスの感動をさらっていく。

それとこの人は何気にトークが上手である。面白い話をするとかそういう事ではなくて、自分の考えや今の興味の対象なんかを、落ち着いたトーンと平易な言葉で語っていく。さすがルポライターとしても活躍されている人だな〜と思った。ラジオのパーソナリティーに向いていると思う。

10分ほどの休憩を挟んだ第二部では、直前でこの日のセットリストに入れたという、はじめ人間ギャートルズのEDテーマ曲(「やつらの足音のバラード」)カバーが絶品! 久しぶりに聴いたこの歌、脳内に子供の頃の再放送の時間帯の記憶がフラッシュバック。そして、歳を取った今だからこそ理解できるこの歌の壮大なスケール感、山と青空に取り囲まれた野外というシチュエーションにヤバイほどのハマり具合。この人の凛とした歌声とピアノの響きに乗って、マンモスを追いかけた遠い荒野の祖先たちの営みが青空の向こうに拡散していく。

渾身の「たよりないもののために」で彼女の弾き語りパートは一旦終了して、そのまま、本日の一組目と二組目の演奏者たちが登壇。彼女のピアノ弾き語りを堪能しつつも、ステージ上に残されたままの楽器の配置を見て、実は秘かにあるのではないかと期待していた合同セッションが、目の前で現実に。本当に来て良かった。移動本屋のお兄さんもベースで参加して、総勢6人のバックバンドを引き連れたバージョンで寺尾紗穂さんは「楕円の夢」「アジアの汗」の2曲を披露。ピアノの弾き語りとは違った、各々の楽器の音が豊かに融合して情感とグルーヴを作り上げていく、本当に本当に贅沢な音楽の時間が目の前にあった。

セッションが終わり、演者たちが袖に引っ込んでもアンコールを求める拍手が鳴り止まず、アンコールは寺尾さんの弾き語りでGEZAN「エンドロール」カバー。この曲のメッセージそのまま、一人一人の旅は続く。いい余韻に浸りながら会場を後にした。そのうちラーメン河に再挑戦しよう。

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