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ミッドサマー [映画]

ここ数日、「ミッドサマー」の事ばかり考えています。そのあまりにブッ飛んだ展開に頭がクラクラしました。一応、ホラー映画とされているが、ホラーというよりも、強烈な(強烈すぎる)異文化トリップ体験映画。それが「ミッドサマー」という映画。

正直、ホラーとしてはそんなに怖くない。いや冒頭のシーンだけは、画面も話も異様に暗くて、すごく嫌~な気持ちになった。主人公を(そしてオーディエンスも)ひたすら精神的に追い込んでいく、前作「ヘレディタリー」と同じ系統の映画やな、と思った。だけどそんな印象は最初だけ。

「ヘレディタリー」も突き抜けた映画だったけど、「ミッドサマー」のワンアンドオンリー感は超絶している感じがする。ちなみに私は「ヘレディタリー」はダメだった。怖すぎるってアレは。それまでは、黒沢清「回路」が私の中での最恐映画だったけど、「ヘレディタリー」が完全にぶっちぎってしまった。もう二度と観ないと思う。(でも、突拍子が無いあのラストはオモシロ過ぎた。)

さて、「ミッドサマー」。ホラーなのに、基本、画面がずっと明るい。夏の北欧の自然が美しい。一面に広がる草原、森、青空、お花畑・・・牧歌的で清々しさに溢れたランドスケープ。そして、穏やかでフレンドリーな民族衣装の村人たち。ホラー映画と言えば、夜である。暗闇である。いかにも何かが出てきます的なカメラの死角からの、溜めて、溜めて、来るぞと思わせておいて一旦弛緩させてからの、急にド~ン!!、的な、定型化されたスタイルである。そんなホラー映画の常套を、この作品ではあまり感じなかった。というよりホラー映画なのに、夜はみんなちゃんと普通に寝てるし! とても健康的な感じです。

主人公の女の子が旅先でバッドトリップするシーンがあるけれど、本作はまさにそれである。エキゾチックなペイガニズムに彩られた真っ昼間の悪夢。そこにあるのは徹底的なアンチクライストの姿勢。そして、昨今のMe Tooの潮流とシンクロする、キリスト教文化圏の(悪しき)父権社会/男尊女卑の否定。同時にまた本作は、人々の盲信にこそ本質的な悪魔が宿っていることへの鋭い示唆であり、また見方を変えれば本作は、相当にブラックなコメディでもある。

とにかく、ここまでユニークで徹底的に違和感だらけの、異教的世界観ホラーを作り上げたアリ・アスターに敬服の念。

個人的評価 5点/5点満点

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ジョジョ・ラビット、リチャード・ジュエル [映画]

今年に入ってからの劇場公開作品が怒涛の傑作ラッシュで、充実の一ヶ月間。そして、2月に入って、あれよあれよと「パラサイト」がオスカーを取っちゃいました。

「パラサイト」が受賞。これはもう一大事です。非アメリカの、いや非西洋圏の映画が米アカデミー賞のトップを取るのは、これまで到底考えられなかったこと。映画史において革命的な事件と言っていいのでは。しかもそれがポン・ジュノの作品っていうのが、シネフィルにとっては本当に本当に嬉しい話で。
ただの「いい映画」という枠内に到底収まらない猛毒を孕んだ社会派ブラックコメディの「パラサイト」は、あんまり映画を観ない人を、映画のディープサイドに引きずり込むポテンシャルを秘めていると思う。

そんな「パラサイト」だけでなく、「フォード vs フェラーリ」「ナイブズアウト」「1917」などなど、オスカー関連作品が大充実な、この1−2ヶ月の公開ラッシュでした。

そして、1月に見た、以下の2作品も。

「ジョジョ・ラビット」
冒頭、これ一体どこの国の映画? いつの時代? ひょっとして現代の英語圏の話なん?と当惑させられた。普通に流暢な英語を話す登場人物達、びっくりさせられるほど大音量で鳴り響くビートルズ「抱きしめたい」、戦時下特有の重苦しい雰囲気を(一見)排除したポップな作り。あらゆる点で型破りなナチス映画、それが今年の早くも個人的ベストワン映画の最有力候補の本作です。

弱虫だけどナチスに憧れる可愛い男の子が主人公。彼の一番の友達はアドルフ(ヒトラー)、ただし想像上の。彼を励まし、慰め、認めてくれる、愉快ですっごいイイヤツ、それが彼のヒーロー、アドルフ・ヒトラー兄貴なんである。

このヒトラーをファニーに演じているのが、監督のタイカ・ワイティティ本人であることを、鑑賞後に購入したパンフレットで知った。人類の歴史上最大の悪人と言っていいヒトラーを、こんなオモシロキャラとして描くことは、おそらく前代未聞。ハリウッドにおける一種のタブーを本作は大胆な形で破っている。しかも一見破天荒なようでいて、実は誠実な映画表現でもある気もしていて、それは当時のドイツの大多数の男の子に取っては、おそらくヒトラー総統ってそんな存在だったのでは、と思ったり。つまりその頃の男の子にとっての、あるべき男性像、偶像としてのヒトラー。そんな歴史の見方もあるということを実は提示しているのが本作である。

やがてボーイ・ミーツ・ガール的な展開から、この男の子の小学生男子的世界観は徐々に変容していく。実に鮮やかで見事な本作のストーリーテリング。それにしてもこの男の子を演じた子役の子、本当に巧い。完全に一流のコメディアクターだ。多分、相当頭がいい子なんだと思う。

そして最高なのが、主人公の母親を演じるスカーレット・ヨハンソン、そして鬼軍曹的な役のサム・ロックウェル。この二人がやり合う(まあ一方的なんだけど)シーンが最高で、他にもこの二人の出演シーンはすべて必見。スカーレット・ヨハンソンは、本作と「マリッジ・ストーリー」で、完全に女優として更に一個上のステージに上った気がする。サム・ロックウェルについては、とにかく一言だけ。「最高」。それだけ。

個人的評価 5点/5点満点

「リチャード・ジュエル」
毎年1本新作映画を発表するイーストウッド、しかも毎回毎回、合格点的なレベルを大きく超えた作品を上梓する人。本当に凄い。89歳ですよ。何というか、もうナンバーワンでいいんじゃないですか? 世界中の現役監督の中で。

日本人にとっては全く馴染のないリチャード・ジュエルという実在の人物を描く本作。イーストウッドの作品系譜の中では、「実話系」「アメリカンヒーロー系」として位置付けされるべき作品。アトランタの爆破テロを食い止めた一般市民の男性が、マスコミとFBIによってテロの容疑者に仕立てられていく話。

主人公のリチャード・ジュエルを演じるのが、「アイ、トーニャ」の中で一際光っていた、誇大妄想ニート男を演じたポール・ウォルター・ハウザー。イーストウッドの映画の主役って大抜擢である。映画のパンフに本物のリチャード・ジュエルの写真が掲載されているのですが、本当にそっくりさんなのだ。でも見た目だけじゃなくて、純粋な正義感から英雄的行為を行い、その事によって不当に貶められていく1人の生真面目な市民の実像を抜群の説得力で演じている。

そして、そんな可哀そうな主人公を助ける弁護士を演じるのが、我らがサム・ロックウェルである。狡猾なFBIと堂々と渡り合う海千山千な弁護士を、眼鏡姿で知的かつ熱く演じてます。「スリービルボード」や「ジョジョ・ラビット」のようなエキセントリックな役だけでなく、今回のようなノーマルに多少の毛が生えた程度の役もバッチリ。健全な職業倫理を体現し、義侠心から公権力に立ち向かっていくという、いかにもイーストウッド的な現代アメリカンヒーロー像を好演。本作におけるもう1人のヒーローである主人公との間で育まれる友情と共感がさらりと描かれるのも、実にいい塩梅である。

あとは、主人公の母親役のキャシー・ベイツがとにかく素晴らしいのと、いつものイーストウッドな、寡黙にして雄弁な光と影の映像美を本作でも心ゆくまで満喫できるのですが、ともかく本作は二人の市井のアメリカンヒーローを並べて描くことで、真のアメリカの男とは何かを語る、イーストウッド節炸裂の1本です。ただ、本作におけるイーストウッドのメッセージは、いつになく直球。心底感動したのはそこ。

個人的評価 5点/5点満点

というわけで、サム・ロックウェルつながりの2本でした。
それと両方とも映画パンフの出来が良い。配給会社のコダワリと愛を感じる。


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ラフィキ ふたりの夢、ロニートとエスティ 彼女たちの選択 [映画]

世界からLGBT系映画の秀作2本。雰囲気や設定が対照的と言えば対照的なんですが、突き刺さってくるエモーションは同じベクトルというか。こういう発見があるから映画は止められない。

「ラフィキ ふたりの夢」
ケニア発、ガール・ミーツ・ガールの青春ラブストーリー。主人公は、ベリーショートの活発な女の子。男の友達とつるんでばかりいる彼女が、虹色ドレッドヘアの女の子と密かな恋に落ちる。若い二人の爽やかな恋路、しかしやがて直面するシビアな現実。

同性愛が禁止されているケニア本国では上映禁止。しかし本作は、明確に世界市場を見据えたハイレベルな恋愛映画だと思った。何というか、もっさい感じが一切ないのだ。シンプルでビビッド。青春映画としても突き刺さるものがあるし。カラフルな色彩感覚と今っぽいナイロビのストリート感覚を前面に打ち出していて、とにかくオシャレ。これ、私がここ最近で観た中で最もオシャレな映画。重さと痛みも含めて。

照り付ける太陽のまぶしさと、夜の闇の美しさ、思い出したのは「ムーンライト」でした。主人公の容姿もなんか似てるし。

個人的評価 4 点/5点満点


「ロニートとエスティ 彼女たちの選択」
トランスジェンダーをテーマにした前作「ナチュラル・ウーマン」に引き続いての、チリの俊英セバスティアン・レリオ監督の最新作。ちなみに「ナチュラル・ウーマン」は2018年のアカデミー外国語映画賞を取っている。レイチェル・ワイズとレイチェル・マクアダムスの二人を主演に迎えた本作は、スペイン語圏から英語圏にステージを移し、カラフルなチリのサンディエゴからくすんだ色調のロンドンに映画のルックもガラッと変えていて、しかし前作と同じスピリットに貫かれた素晴らしい作品。

ロンドン市内の、正統派ユダヤ教徒の保守的なコミュニティ。その保守性に反発して故郷を飛び出し自由に生きる女性が、高名なラビだった父の死をきっかけに戻ってくる。彼女を出迎えた父の愛弟子と、その妻。幼馴染のこの3人、何か訳アリっぽい感じなんですが、この3人の関係性を主軸にストーリーが進む。

保守的な規範と古い因習に支配されたコミュニティを舞台としていて、色彩も光線も俳優の演技も、意図的に抑制された絵作り。なんですが、そんな抑圧の中で秘められた感情が顔を出し、衝動となって溢れ出すさまが、本当に狂おしい。そうして最後、体面も外聞もかなぐり捨てて発せられた言葉に、理性も感情も揺さぶられ、モーレツに感動しました。

宗教あるいは共同体と、個人。この単純な対立項を逸脱していく点に、映画という表現手段に掛けるこの監督さんの強い信念と芸術家魂を感じる。思い出したのは、ヤスミン・アフマドの「ムアラフ」とか。地味なようで、実はコレ傑作です。原題の「Disobedience」(不服従)も深い。

俳優も素晴らしかった。特に、レイチェルとレイチェルに挟まれた格好の男性の俳優さん、多分初見?なんですが、本当に巧い。

個人的評価 5点/5点満点



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テリーギリアムのドン・キホーテ [映画]

大いにやり切っていた。テリーギリアムがついに完成させたドン・キホーテの映画化。今をときめくアダム・ドライバーが主演である。ちょっと今の彼には手が付けられない感じだ。そしてドン・キホーテ役のジョナサン・プライスがまた、本当に素晴らしい。この二人の俳優の才能の豊かさに誰もが魅了されてしまう作品だと思う。

時代設定を中世ではなく現代に置き換えながらも、巨大な風車に向かって突撃する老人、という原作の偉大な精神性は全く損なわれていない。逆に、主人公の二人のペルソナが、本作の映画化に長年挑戦し続けたテリー・ギリアム自身とどうしたって重なってくる本作のメタ性によって、原作の精神性がますます強固なものとなっている。テリー・ギリアムならではのアーティスティックで見事なビジュアルセンスも出し惜しみなく、そして、アンダルシアの荒野の景観は実にフォトジェニックで映画的。まさにめくるめく映像体験。

世界的に超有名な文芸作品を、そのスピリッツを全く損なうことなく、コメディとして、コスチュームプレイとして、そして壮大な現代の冒険絵巻として、ついにこのように実にお見事な形で映画化させたテリー・ギリアム、その才能の巨大さを再認識。私、「12モンキーズ」、大好きでした。
自分的にはこの人は、そのアーティで自由な感覚から、ホドロフスキーと同じフォルダに入っています。

個人的評価 5点/5点満点



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ロマンスドール [映画]

好きな映画監督の新作は必ず映画館で観たいと思っているクチです。タナダユキ監督の新作が近所のシネコンでも公開されて観に行った。高橋一生と蒼井優が主演。タナダユキと蒼井優と言えば「百万円と苦虫女」ですやん! つい最近の映画のような気がするが、もう10年以上前。

事前情報ゼロで観に行ったので、ラブドールの話でびっくりした。そうか今はラブドールって愛玩物であり、芸術作品なんですね。そんな最先端のラブドールを、ものづくりの対象として非常に真面目に取り扱っていて、しかしその目的もキッチリ押さえている(胡散臭さ満点のピエール瀧の演技で)のが、とても真摯に感じる。ラブドールを扱いながら、物語のテーマが実は混じり気なしの純愛、というのが、また良い。あとこのストーリー、男の監督だったら私は結構ドン引きしたと思うんですが(是枝監督の「空気人形」は何かダメでした)、女性監督という事で、丁度いい塩梅に希釈(?)された感じ。淡い色調で統一された映画のルックもいい感じ。

主演の二人も素晴らしいのですが、きたろうさん他、脇も素晴らしい。ピエール瀧はいい役者だと再確認。ナチュラルな演技のハマケンも。そして最高だったのがエンディングテーマのネバヤン。映画の世界観にぴったりの曲調で、びっくりするほどの名曲で、余韻がもう・・・ハンパなかったッス。
もう1回観たい。

個人的評価 4.5点/5点満点

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