ネルーダ 大いなる愛の逃亡者

ガエル・ガルシア・ベルナルが出演で、へえそうなん、という感じだったけど、監督がチリの俊英パブロ・ラライン。と知った途端に興味が湧いて、とりあえず観に行った。観に行って正解だった。なんかオレの好きな感じの、期待を完全に上回る出来。

チリの世界的詩人パブロ・ネルーダ。ホドロフスキーの「エンドレスポエトリー」で言及されていた人。もちろん全くこの人に関する知識は無かったし、本作が描く1948年当時のチリの状況なんて知ってるわけがない。それでもこの映画は面白かったし、勉強にもなった。

1948年当時、すでに世界的な名声を得ていたネルーダは、チリ国内では共産党に所属する大物政治家でもあった。しかし東西冷戦に突入しつつある世界情勢のなかで、当時のチリでは共産党が大統領によって非合法化され、彼は政府によって追われる身となってしまう、というストーリー。

そのネルーダを追いかける刑事の役を演じるのがオールバック＆ヒゲのガエル・ガルシア・ベルナル。国家権力の犬として、チリ国内のどこかに潜伏しているネルーダの行方をネチネチと追い続けるハンターの役。一方でネルーダの方は結構気楽に潜伏生活をエンジョイ。放蕩で筋金入りの享楽主義者として描かれる。

この追う者と追われる者、２人の対照的なキャラクターが近付いたり離れたりして並走するストーリー展開。そこに生じるサスペンス。面白いのは、ガエル・ガルシア・ベルナル演じる悪役のモノローグで物語が進行していくことで、この虚構のキャラクターが、ネルーダの行方に肉薄していく過程において、追い掛ける対象ネルーダを語る言葉に徐々に詩的な色合いが帯びていく。そうして単純な追跡者と被追跡者という関係性を超えた、第六感的な領域における相互作用／共鳴が立ち上がってくるのである。

ガエル君だけでなく、ネルーダを演じたルイス・二ェッコ、ネルーダの奥さんを演じたメルセデス・モラーンも名演。それまでの都会の光景の連続から風景が一変する後半の展開も非常に面白く、南米を旅しているような映像美も素晴らしかった。最後までオレの好きな感じの映画でした。

個人的評価 ５点／５点満点