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夢売るふたり、鍵泥棒のメソッド [映画]

監督自らが、オリジナルの脚本を書き、その脚本の完成度が異様に高く、それで出来た映画を観てみると、その監督の強い個性というか「ああ、この人の映画だなぁ」という作家性を常に感じさせる、気鋭の日本人映画作家の二人。
西川美和、内田けんじ。
ともに、自分の確固としたカラーを確立させていて、脚本の隅々に強いコダワリを感じさせる、職人肌の監督だと思う。
二人の個性がそれぞれ強く出ている待望の新作が、相次いで公開された。

ネタバレありかも。

「夢売るふたり」
西川美和監督の最新作。

私にとって、今まで観た中でベストの邦画は何か?と問われたら、迷わず彼女の「ゆれる」である。
他にも「ハッシュ!」か「愛のむきだし」か、まあ色々だけど、「ゆれる」の異様に練り上げられた脚本と、深いもやの様に映画全体に漂う得体の知れない緊張感、何かいや〜な感じは、そこに出ている演者全員の研ぎ澄まされた演技合戦と相まって、まさにワンアンドオンリーだった。
私にとっての、邦画ナンバーワンである。
彼女の「蛇イチゴ」も「ディア・ドクター」も、めちゃくちゃ好きな映画だ。だから、今回の「夢売るふたり」も半端じゃないほど公開を期待していた一本だった。

主人公は、松たか子と阿部サダヲが演じる、居酒屋を営む普通の夫婦。
映画の冒頭で、営業中に不注意から、自分のお店をいきなり全焼。気持ちを切り替えて前に進もうとする妻と、傷心をひきずる夫。
そんな夫に、実は意外にも、女たらしの才能があることが判明。再び二人でお店を出す為に、二人はグルになって淋しげな女性に近付いては騙し、大金をせしめる結婚詐欺まがいの行為を続けるようになる、という話。

何と言っても、主演二人の役へのハマり具合が完璧。
阿部サダヲは、まさにハマり役。持ち前の愛嬌で、次々と女性に近づいてはそのハートを掴んでしまう男の役。ルックスやかっこよさを武器に相手をだますというのではなく、どんな女性が相手でも、心を通わせて一時的に恋愛感情を自分の中で形成させてしまう、という感じのプレーボーイ。
一方で松たか子。明るくて気だての良い、よく出来た恋女房の役。火事でお店を失ったのに、クヨクヨした所は決して表に出さず、前を向き、落ち込んだ夫を励ます。しかしある出来事がきっかけで、女の性が一気に表出してしまい・・・。時折、「告白」の時のように、凄まじい般若の面が一瞬一瞬で顔を出す。凄い女優さんです。トイレのシーンの空っぽな感じとか。
今年の日本アカデミー賞女優部門は、彼女でキマリではないでしょうか。

二人が詐欺を働く場面では、軽妙なコメディっぽい感じに仕上がっていて、どことなく笑える感じでコミカルに描かれる。けど映画全体で見れば、とてもヘビー。男女の色恋に対する考察が。深い所で感情の何かにタッチされる感覚は、やっぱり西川美和作品やなーって感じだった。タイトルもダブルミーニングで秀逸。そしてラストシーンは本当に素晴らしい。

個人的評価 4点/5点満点

公式HP
http://yumeuru.asmik-ace.co.jp/



「鍵泥棒のメソッド」
内田けんじ監督の「運命じゃない人」を初めて観た時、軽く衝撃を受けた事を覚えている。
うーん、こういう映画もあるんだなあ、て感じ。アイディアも脚本も素晴らしい。
その次の「アフタースクール」も面白かった。「アフタースクール」は、脚本力と、俳優の魅力との合体技だった。

さて、今回の「鍵泥棒」。
映画の始めの方で香川照之が、超が付くほど神経質なプロの殺し屋を演じているのを見て、「ああ、またアクの強い悪役か。最近の彼はこんなんばっかりやな。」と思ったんだけど、そんな彼が記憶喪失に陥り、どん底生活を送る貧乏俳優(堺雅人)と生活が入れ替わっていく下りで、冒頭の、眼光鋭い殺し屋とは全然違うマジメ人物になった時に、このキャスティング完璧や!と感じるように。
(ちなみに私の中でベスト香川照之は上述の「ゆれる」です。)

期待通りの、内田けんじワールド。
裏稼業の人間と普通の一般人が交錯する話だし、基調はコメディだし(とびきり良質の)、伏線が色々と張り巡らされていて、後半にそれがどんどんつながっていくところに映画としての最も大きな快楽原則を置いているのも、そう。

何をしても中途半端でダメ男の役を、結構ノリノリで演じている堺雅人もいいんだけど、持ち前の演技力が存分に生かされた香川照之と、あと、必要以上に抑えた演技の広末涼子がとても良い。彼女は、メガネをかけて、常にスーツファッションで、超マジメな堅物の女性を好演。そんな女性が職場で、具体的な相手もいないのに超マジメな結婚宣言を行う場面で映画は始まる。(それを職場の部下達が戸惑いながら受け入れ、彼女の結婚プロジェクトへのサポート体制をすぐに整えます。)
彼女がこの役にはまらなかったら、コメディとしてこれほど成功しないような映画だった。

あと俳優で個人的に特筆したいのは森口瑤子さんです。

もう、あざやか!としか言い様がない展開。そしてこの映画も、ラストシーンが実に素晴らしい(特に、句読点のピリオドを映画に付ける森口瑤子さん)。
全てを語らない所に独特の凄みと余韻を残す西川美和監督とは異なり、内田けんじ監督は本当にきれいにまとめてくれます。
それと、エンドロールが終わった後にちょっとしたオマケがあります。


個人的評価 4点/5点満点

公式HP
http://kagidoro.com/

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