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架空OL日記 [映画]

バカリズムが銀行OLを演じ、同僚のOL達とダベったり愚痴ったりしている日常を淡々と切り取る。という字面だけ読むと、静かに狂ってる感がジワジワ漂ってきますが実は向田邦子賞も獲っている、数年前の伝説的?深夜ドラマがついに映画化。でも映画化だからと変にお金をかけたりドラマチックな展開を取り入れたりしない(大半の、というかほぼ全ての日本のテレビドラマの映画化が失敗作なのは、それが原因)。そこが本当に素敵。

キャストは前回に引き続き夏帆、臼田あさ美、山田真歩と完全通好みの並び。中でも夏帆の安定感と、ここぞの場面での突破力が素晴らしい。佐藤玲、三浦透子の注目若手も含めて、このキャスティングは本作の結構重要な肝だと思う。更に映画版ではシム・ウンギョン(彼女の選球眼も素晴らしい)、坂井真紀、志田未来、石橋菜津美と、ことごとくイイところを突いてくるピッチングです。

見れば見るほど癖になってくるバカリズム・ワールド。それはテレビでも映画のスクリーンでも変わらない。狙って大技を披露しない感じ。能ある鷹は爪を隠すって言いますが、爪を隠していることが誰から見ても明らかな感じ。もちろん脚本はバカリズムですが、監督を本職の別の人に任せていて、その辺にも彼の本質的な頭脳明晰さが表れている気がします。エンディングのなんとも言えない感じがまた、「・・・ああっ!」てなって、そしてジワジワきます。

個人的評価 4点/5点満点

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ダンサー そして私たちは踊った [映画]

グルジア(ジョージア)を舞台にした青春映画。グルジアとジョージア、どっちが正しいだろう・・・。ジョージアって明らかに英語読みだし、やっぱグルジアなんかな。舞台はグルジアなんですが、監督さんのレヴァン・アキンがスウェーデン出身なので、スウェーデンの映画ということになっている。グルジア国内では同性愛が違法になっていて、この作品も上映禁止になっている、という事情もあるのかもしれない。

グルジアの民族舞踊に打ち込んでる青年が主人公。民族舞踊といっても伝統芸能というより、動きが激しくて、モダン&スタイリッシュな感じ。実家で家族と同居し、苦しい家計を助けるためにバイトにも精を出しつつ、国立舞踊団に所属し、その中でもトップクラスの実力を持つ。ダンスパートナーで彼女っぽい存在の女の子もいる。そんなある日、人懐っこい感じの一人の青年が入団して、徐々に主人公と惹かれ合っていく訳です。

この二人の若い役者が抜群にいい。溌溂として、時に繊細で、印象的で目が離せない感じ。そしてエモーショナルでダイナミックなダンスシーンがまた抜群にカッコいい。特に主人公を演じた人は元々ダンサーで、本作が初演技とのことなんですが、ダンスにも演技にも惹き込まれる。

主人公には、同じ舞踊団で将来を嘱望されていた兄がいて、兄弟の仲はいいんですが、言動はいかにも保守的かつマスキュリズムな感じで、自身のセクシャリティに徐々に目覚めていく弟と対比的に描かれる。この兄ちゃんが物語の上でキーマンの一人で、彼の存在によって、本作は社会的な重層性を効果的に獲得することに成功していると思う。

社会の様々な軋轢の中でもがきながら、自分の生き方を模索していく主人公の戸惑い、痛み、希望。スクリーンに刻み付けられた鼓動とステップ。世界の辺境から出現した青春映画の新たなクラシック。

個人的評価 4.5 点/5点満点


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ミッドサマー [映画]

ここ数日、「ミッドサマー」の事ばかり考えています。そのあまりにブッ飛んだ展開に頭がクラクラしました。一応、ホラー映画とされているが、ホラーというよりも、強烈な(強烈すぎる)異文化トリップ体験映画。それが「ミッドサマー」という映画。

正直、ホラーとしてはそんなに怖くない。いや冒頭のシーンだけは、画面も話も異様に暗くて、すごく嫌~な気持ちになった。主人公を(そしてオーディエンスも)ひたすら精神的に追い込んでいく、前作「ヘレディタリー」と同じ系統の映画やな、と思った。だけどそんな印象は最初だけ。

「ヘレディタリー」も突き抜けた映画だったけど、「ミッドサマー」のワンアンドオンリー感は超絶している感じがする。ちなみに私は「ヘレディタリー」はダメだった。怖すぎるってアレは。それまでは、黒沢清「回路」が私の中での最恐映画だったけど、「ヘレディタリー」が完全にぶっちぎってしまった。もう二度と観ないと思う。(でも、突拍子が無いあのラストはオモシロ過ぎた。)

さて、「ミッドサマー」。ホラーなのに、基本、画面がずっと明るい。夏の北欧の自然が美しい。一面に広がる草原、森、青空、お花畑・・・牧歌的で清々しさに溢れたランドスケープ。そして、穏やかでフレンドリーな民族衣装の村人たち。ホラー映画と言えば、夜である。暗闇である。いかにも何かが出てきます的なカメラの死角からの、溜めて、溜めて、来るぞと思わせておいて一旦弛緩させてからの、急にド~ン!!、的な、定型化されたスタイルである。そんなホラー映画の常套を、この作品ではあまり感じなかった。というよりホラー映画なのに、夜はみんなちゃんと普通に寝てるし! とても健康的な感じです。

主人公の女の子が旅先でバッドトリップするシーンがあるけれど、本作はまさにそれである。エキゾチックなペイガニズムに彩られた真っ昼間の悪夢。そこにあるのは徹底的なアンチクライストの姿勢。そして、昨今のMe Tooの潮流とシンクロする、キリスト教文化圏の(悪しき)父権社会/男尊女卑の否定。同時にまた本作は、人々の盲信にこそ本質的な悪魔が宿っていることへの鋭い示唆であり、また見方を変えれば本作は、相当にブラックなコメディでもある。

とにかく、ここまでユニークで徹底的に違和感だらけの、異教的世界観ホラーを作り上げたアリ・アスターに敬服の念。

個人的評価 5点/5点満点

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ジョジョ・ラビット、リチャード・ジュエル [映画]

今年に入ってからの劇場公開作品が怒涛の傑作ラッシュで、充実の一ヶ月間。そして、2月に入って、あれよあれよと「パラサイト」がオスカーを取っちゃいました。

「パラサイト」が受賞。これはもう一大事です。非アメリカの、いや非西洋圏の映画が米アカデミー賞のトップを取るのは、これまで到底考えられなかったこと。映画史において革命的な事件と言っていいのでは。しかもそれがポン・ジュノの作品っていうのが、シネフィルにとっては本当に本当に嬉しい話で。
ただの「いい映画」という枠内に到底収まらない猛毒を孕んだ社会派ブラックコメディの「パラサイト」は、あんまり映画を観ない人を、映画のディープサイドに引きずり込むポテンシャルを秘めていると思う。

そんな「パラサイト」だけでなく、「フォード vs フェラーリ」「ナイブズアウト」「1917」などなど、オスカー関連作品が大充実な、この1−2ヶ月の公開ラッシュでした。

そして、1月に見た、以下の2作品も。

「ジョジョ・ラビット」
冒頭、これ一体どこの国の映画? いつの時代? ひょっとして現代の英語圏の話なん?と当惑させられた。普通に流暢な英語を話す登場人物達、びっくりさせられるほど大音量で鳴り響くビートルズ「抱きしめたい」、戦時下特有の重苦しい雰囲気を(一見)排除したポップな作り。あらゆる点で型破りなナチス映画、それが今年の早くも個人的ベストワン映画の最有力候補の本作です。

弱虫だけどナチスに憧れる可愛い男の子が主人公。彼の一番の友達はアドルフ(ヒトラー)、ただし想像上の。彼を励まし、慰め、認めてくれる、愉快ですっごいイイヤツ、それが彼のヒーロー、アドルフ・ヒトラー兄貴なんである。

このヒトラーをファニーに演じているのが、監督のタイカ・ワイティティ本人であることを、鑑賞後に購入したパンフレットで知った。人類の歴史上最大の悪人と言っていいヒトラーを、こんなオモシロキャラとして描くことは、おそらく前代未聞。ハリウッドにおける一種のタブーを本作は大胆な形で破っている。しかも一見破天荒なようでいて、実は誠実な映画表現でもある気もしていて、それは当時のドイツの大多数の男の子に取っては、おそらくヒトラー総統ってそんな存在だったのでは、と思ったり。つまりその頃の男の子にとっての、あるべき男性像、偶像としてのヒトラー。そんな歴史の見方もあるということを実は提示しているのが本作である。

やがてボーイ・ミーツ・ガール的な展開から、この男の子の小学生男子的世界観は徐々に変容していく。実に鮮やかで見事な本作のストーリーテリング。それにしてもこの男の子を演じた子役の子、本当に巧い。完全に一流のコメディアクターだ。多分、相当頭がいい子なんだと思う。

そして最高なのが、主人公の母親を演じるスカーレット・ヨハンソン、そして鬼軍曹的な役のサム・ロックウェル。この二人がやり合う(まあ一方的なんだけど)シーンが最高で、他にもこの二人の出演シーンはすべて必見。スカーレット・ヨハンソンは、本作と「マリッジ・ストーリー」で、完全に女優として更に一個上のステージに上った気がする。サム・ロックウェルについては、とにかく一言だけ。「最高」。それだけ。

個人的評価 5点/5点満点

「リチャード・ジュエル」
毎年1本新作映画を発表するイーストウッド、しかも毎回毎回、合格点的なレベルを大きく超えた作品を上梓する人。本当に凄い。89歳ですよ。何というか、もうナンバーワンでいいんじゃないですか? 世界中の現役監督の中で。

日本人にとっては全く馴染のないリチャード・ジュエルという実在の人物を描く本作。イーストウッドの作品系譜の中では、「実話系」「アメリカンヒーロー系」として位置付けされるべき作品。アトランタの爆破テロを食い止めた一般市民の男性が、マスコミとFBIによってテロの容疑者に仕立てられていく話。

主人公のリチャード・ジュエルを演じるのが、「アイ、トーニャ」の中で一際光っていた、誇大妄想ニート男を演じたポール・ウォルター・ハウザー。イーストウッドの映画の主役って大抜擢である。映画のパンフに本物のリチャード・ジュエルの写真が掲載されているのですが、本当にそっくりさんなのだ。でも見た目だけじゃなくて、純粋な正義感から英雄的行為を行い、その事によって不当に貶められていく1人の生真面目な市民の実像を抜群の説得力で演じている。

そして、そんな可哀そうな主人公を助ける弁護士を演じるのが、我らがサム・ロックウェルである。狡猾なFBIと堂々と渡り合う海千山千な弁護士を、眼鏡姿で知的かつ熱く演じてます。「スリービルボード」や「ジョジョ・ラビット」のようなエキセントリックな役だけでなく、今回のようなノーマルに多少の毛が生えた程度の役もバッチリ。健全な職業倫理を体現し、義侠心から公権力に立ち向かっていくという、いかにもイーストウッド的な現代アメリカンヒーロー像を好演。本作におけるもう1人のヒーローである主人公との間で育まれる友情と共感がさらりと描かれるのも、実にいい塩梅である。

あとは、主人公の母親役のキャシー・ベイツがとにかく素晴らしいのと、いつものイーストウッドな、寡黙にして雄弁な光と影の映像美を本作でも心ゆくまで満喫できるのですが、ともかく本作は二人の市井のアメリカンヒーローを並べて描くことで、真のアメリカの男とは何かを語る、イーストウッド節炸裂の1本です。ただ、本作におけるイーストウッドのメッセージは、いつになく直球。心底感動したのはそこ。

個人的評価 5点/5点満点

というわけで、サム・ロックウェルつながりの2本でした。
それと両方とも映画パンフの出来が良い。配給会社のコダワリと愛を感じる。


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ラフィキ ふたりの夢、ロニートとエスティ 彼女たちの選択 [映画]

世界からLGBT系映画の秀作2本。雰囲気や設定が対照的と言えば対照的なんですが、突き刺さってくるエモーションは同じベクトルというか。こういう発見があるから映画は止められない。

「ラフィキ ふたりの夢」
ケニア発、ガール・ミーツ・ガールの青春ラブストーリー。主人公は、ベリーショートの活発な女の子。男の友達とつるんでばかりいる彼女が、虹色ドレッドヘアの女の子と密かな恋に落ちる。若い二人の爽やかな恋路、しかしやがて直面するシビアな現実。

同性愛が禁止されているケニア本国では上映禁止。しかし本作は、明確に世界市場を見据えたハイレベルな恋愛映画だと思った。何というか、もっさい感じが一切ないのだ。シンプルでビビッド。青春映画としても突き刺さるものがあるし。カラフルな色彩感覚と今っぽいナイロビのストリート感覚を前面に打ち出していて、とにかくオシャレ。これ、私がここ最近で観た中で最もオシャレな映画。重さと痛みも含めて。

照り付ける太陽のまぶしさと、夜の闇の美しさ、思い出したのは「ムーンライト」でした。主人公の容姿もなんか似てるし。

個人的評価 4 点/5点満点


「ロニートとエスティ 彼女たちの選択」
トランスジェンダーをテーマにした前作「ナチュラル・ウーマン」に引き続いての、チリの俊英セバスティアン・レリオ監督の最新作。ちなみに「ナチュラル・ウーマン」は2018年のアカデミー外国語映画賞を取っている。レイチェル・ワイズとレイチェル・マクアダムスの二人を主演に迎えた本作は、スペイン語圏から英語圏にステージを移し、カラフルなチリのサンディエゴからくすんだ色調のロンドンに映画のルックもガラッと変えていて、しかし前作と同じスピリットに貫かれた素晴らしい作品。

ロンドン市内の、正統派ユダヤ教徒の保守的なコミュニティ。その保守性に反発して故郷を飛び出し自由に生きる女性が、高名なラビだった父の死をきっかけに戻ってくる。彼女を出迎えた父の愛弟子と、その妻。幼馴染のこの3人、何か訳アリっぽい感じなんですが、この3人の関係性を主軸にストーリーが進む。

保守的な規範と古い因習に支配されたコミュニティを舞台としていて、色彩も光線も俳優の演技も、意図的に抑制された絵作り。なんですが、そんな抑圧の中で秘められた感情が顔を出し、衝動となって溢れ出すさまが、本当に狂おしい。そうして最後、体面も外聞もかなぐり捨てて発せられた言葉に、理性も感情も揺さぶられ、モーレツに感動しました。

宗教あるいは共同体と、個人。この単純な対立項を逸脱していく点に、映画という表現手段に掛けるこの監督さんの強い信念と芸術家魂を感じる。思い出したのは、ヤスミン・アフマドの「ムアラフ」とか。地味なようで、実はコレ傑作です。原題の「Disobedience」(不服従)も深い。

俳優も素晴らしかった。特に、レイチェルとレイチェルに挟まれた格好の男性の俳優さん、多分初見?なんですが、本当に巧い。

個人的評価 5点/5点満点



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テリーギリアムのドン・キホーテ [映画]

大いにやり切っていた。テリーギリアムがついに完成させたドン・キホーテの映画化。今をときめくアダム・ドライバーが主演である。ちょっと今の彼には手が付けられない感じだ。そしてドン・キホーテ役のジョナサン・プライスがまた、本当に素晴らしい。この二人の俳優の才能の豊かさに誰もが魅了されてしまう作品だと思う。

時代設定を中世ではなく現代に置き換えながらも、巨大な風車に向かって突撃する老人、という原作の偉大な精神性は全く損なわれていない。逆に、主人公の二人のペルソナが、本作の映画化に長年挑戦し続けたテリー・ギリアム自身とどうしたって重なってくる本作のメタ性によって、原作の精神性がますます強固なものとなっている。テリー・ギリアムならではのアーティスティックで見事なビジュアルセンスも出し惜しみなく、そして、アンダルシアの荒野の景観は実にフォトジェニックで映画的。まさにめくるめく映像体験。

世界的に超有名な文芸作品を、そのスピリッツを全く損なうことなく、コメディとして、コスチュームプレイとして、そして壮大な現代の冒険絵巻として、ついにこのように実にお見事な形で映画化させたテリー・ギリアム、その才能の巨大さを再認識。私、「12モンキーズ」、大好きでした。
自分的にはこの人は、そのアーティで自由な感覚から、ホドロフスキーと同じフォルダに入っています。

個人的評価 5点/5点満点



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ロマンスドール [映画]

好きな映画監督の新作は必ず映画館で観たいと思っているクチです。タナダユキ監督の新作が近所のシネコンでも公開されて観に行った。高橋一生と蒼井優が主演。タナダユキと蒼井優と言えば「百万円と苦虫女」ですやん! つい最近の映画のような気がするが、もう10年以上前。

事前情報ゼロで観に行ったので、ラブドールの話でびっくりした。そうか今はラブドールって愛玩物であり、芸術作品なんですね。そんな最先端のラブドールを、ものづくりの対象として非常に真面目に取り扱っていて、しかしその目的もキッチリ押さえている(胡散臭さ満点のピエール瀧の演技で)のが、とても真摯に感じる。ラブドールを扱いながら、物語のテーマが実は混じり気なしの純愛、というのが、また良い。あとこのストーリー、男の監督だったら私は結構ドン引きしたと思うんですが(是枝監督の「空気人形」は何かダメでした)、女性監督という事で、丁度いい塩梅に希釈(?)された感じ。淡い色調で統一された映画のルックもいい感じ。

主演の二人も素晴らしいのですが、きたろうさん他、脇も素晴らしい。ピエール瀧はいい役者だと再確認。ナチュラルな演技のハマケンも。そして最高だったのがエンディングテーマのネバヤン。映画の世界観にぴったりの曲調で、びっくりするほどの名曲で、余韻がもう・・・ハンパなかったッス。
もう1回観たい。

個人的評価 4.5点/5点満点

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第三夫人と髪飾り [映画]

ベトナム映画と言えば、「青いパパイヤの香り」くらいしか思い浮かばない。日本に紹介されているベトナム映画ってそれくらい? 偶然か、それと何か似た雰囲気の本作。本作はスパイク・リーに師事していたというNY在住のベトナム人女性が監督。本作がデビュー作とのこと。世界各国の映画祭で多数の賞を取っているという。

19世紀ベトナムの農村部を舞台に、大地主のもとに第三夫人として嫁いだ少女の物語。第三夫人ということは第一と第二が存在するわけで、そういう女性同士のありがちなドロドロ嫉妬劇が描かれるのかと思いきや、それは凡人の先入観。一夫多妻制の家族を題材にしながら、主人公の少女の目を通して、たおやかに美しく生きる当時の女性達の生き様、その強さと儚さを見つめた、もっと深い人間ドラマ。

まず何よりも目を奪われるのが、優美で女性的な自然の美、神秘的で息をのむような東洋的映像美の数々。とにかく映像が美しい。本作の映像面での審美性は、最初から最後まで研ぎ澄まされ、徹底している。後半のあるシーンで、隣の隣に座っていた女性が小さく声を上げて、そして静かに嗚咽していたのですが、そのシーンは本当に悲しくて、そして魔法のように美しかった。本作は間違いなく傑作だと思う。


個人的評価 5点/5点満点

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ジョゼと虎と魚たち、メゾン・ド・ヒミコ [映画]

京都みなみ会館で犬童一心監督の特集。「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「黄色い涙」の3作品が、週替わりで。
「黄色い涙」は観に行けなかったが、「ジョゼ虎」「メゾンドヒミコ」は仕事を強引に定時で切り上げて駆け込みました。そして映画館の暗闇の中で浸りました。2本ともDVD持ってますが、映画館でこの2本を再び拝見することができて、まさに至福の時間。

結局観に行けなかった「黄色い涙」は、私は嵐目当てではなくて音楽を担当したSAKEROCK目当てで観たかったけど、チケットが取りづらかったらしい。さすがARASHIって思った。「黄色い涙」もいい映画だったと記憶してるけど、個人的な思い入れでは「ジョゼ虎」「メゾンドヒミコ」がダントツすぎて。

犬童一心と渡辺あやの黄金コンビによる、ゼロ年代の日本映画を語る上で欠かせないと思われるこの2作品。「ジョゼ虎」は当時のミニシアターブームの一翼を担った、日本の映画史上の重要作品。映画としての完成度という点では更にその上を行く気がする「メゾンドヒミコ」。ちなみに犬童監督と渡辺あや脚本の作品はこの2作だけである。この2作品を残してくれたからこそ、この二人を黄金コンビと勝手に呼びたくなる。

健康優良児の大学生男子と口の悪い身体障害者の女の子の間の恋を描いた正統派青春恋愛映画の「ジョゼと虎と魚たち」。主演の妻夫木聡と池脇千鶴はまさに当たり役で、二人にとって本作はキャリア代表作の一つなのは間違いない。そして本作は上野樹里のデビュー作でもあり(「スウィング・ガールズ」より前。「スウィング・ガールズ」では高校生の役だけど、本作では大学生の役。)、他にも新井浩文や江口のりこが、本作ではフレッシュに輝いている。

観たの超久し振りですが、改めて観ると、好きなシーン目白押しで、二人が偶然遭遇するシーン辺りから、もう何もかもが感無量。本作の映画的ハイライトである二人のラブシーンはもちろん、映画のメインイメージにもなった二人の疾走シーン(世界の扉が開くこの感覚!)、切なさに胸が締め付けられる熱帯魚のシーン・・・ほかにも色々。久々に観た感のノスタルジーもあり、めちゃくちゃ浸ってしまいましたよ。何よりも、押し入れに佇む、小憎らしくも可愛いジョゼの姿に、もう一度スクリーンで会えたことも嬉しかった。坂の上で池脇千鶴と上野樹里が対峙する場面も大好きな場面の一つ。

恒夫の回想のモノローグから始まる本作の語りの基本構造は、二度見、三度見することで、青春映画的な効果がキリキリと増大する仕掛けになっている。明るい自然光線の多用による映画の全体的な色彩設計もまた、青春映画として効果的。そして流れてくる、くるり「ハイウェイ」のイントロ・・・タイミングが完璧だ。最高。それと、本作において議論の対象となった恒夫の涙。その意味が今までピンとこなかったけど、今回は何となく合点が行った。

家族を捨てたゲイの父を憎む娘と、余命いくばくもない老いた父と、父の愛人の若い男。
海岸沿いに位置するゲイ専門の老人ホームを舞台にしたヒューマンドラマの「メゾン・ド・ヒミコ」。今風に言えばLGBT系ということになりますが、当時はまだそんなジャンル名称は無かったと思う。本作も、観るの久しぶり。あらためて、本当に傑作やなあ、としみじみ浸りました。

ブサカワ女子(もちろんそういうメイクで)を好演した柴咲コウも、浮世離れしたヒミコを演じた田中泯も良いのですが、本作のオダギリジョーがちょっと有り得ないほど色っぽい。同性から見ても。そしてそんなオダジョーと対極的、というかある意味で表裏な存在として配置される西島秀俊も印象強し。ゲイの老人たちがまた、一人一人キャラ立ちしていて、非常にいい仕事してます。

映画の主な舞台は、一本道をバスに揺られてやがて辿り着く海岸沿いの、ゲイ専門の老人ホーム。六本木のゲイバーの伝説的なママだったヒミコが、引退後に海岸沿いのラブホテルを買い取ってゲイ専門老人ホームに改装した、という設定。そこはある種のサンクチュアリであり、入所者たちにとって世間と時間から隔絶されたシェルターであり、その瀟洒な建物の外にはただひたすら海と空が広がっていて、彼岸に近い異界感すら漂っている。メランコリックな本作のトーンを決定づけているのはこの舞台装置だと思う。もう一つ重要な要素が細野晴臣による音楽で、チルアウト感が絶妙です。

老いと孤独、性と死、聖と俗。土砂降りの雨と、燦燦と輝く青空。唐突なアニメーション、奇跡的な束の間のダンスフロア。様々なモチーフが溶け合いながら、簡単に折り合わない/なれ合わない登場人物たちの群像劇が、そして同性愛者の老人たちとの交流を通じて成長していく主人公の物語が海のそばで展開されていく。ビターで優しい、犬童監督の最高傑作だと思います。


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2019年テレビドラマ 個人的ベスト5 [テレビドラマ]

2019年も、仕事が忙しいといいながら、テレビドラマは結構観てました。
というより、一週間ごとに繰り返される日々のドラマチェックのせいで日々の睡眠時間が削られ、そのせいで日々の仕事の処理能力が落ち、余計になんか忙しくなった、というのが正しい。(それって社会人失格かも。)

1位 「これは経費で落ちません」
初回を何気なくチェックして、これ面白いなと思い、第二話、第三話と回を増すごとに、すっかりトリコになってしまいました。
会社組織の中でも経理部にスポットを当てたドラマは珍しいと思うけど、一見地味な経理部の仕事に誇りと使命感を持って職務をこなし、時に葛藤する等身大のヒロイン像を多部未華子が好演。そんなヒロインが、請求書という紙切れから、組織に潜む問題とその真相に毎回毎回迫っていくという、一話完結式、探偵スタイルのお仕事ヒロインドラマ。
伊藤沙莉、江口のりこほか、周囲の群像もパーフェクト。
ストーリーとテーマ性、何よりもキャラクター設定とキャスティングの勝利。

2位 「凪のお暇」
「すいか」を彷彿とさせるの世界観がまずたまらないワケですが(市川実日子の起用は確信犯的)、「これは経費で落ちません」同様に、本作は何よりもキャラクター造形とキャスティングの勝利です。高橋一生と中村倫也に話題が集中していた感がありますが、何よりも主演の黒木華の抜群の演技力あってこそ、でしょう。
毎回ファーストサマーウイカを別人の役で出したり、「バルス!」など、めっちゃ遊んでいるのも最高。

3位 「だから私は推しました」
NHKの深夜ドラマ枠が攻めていると話題になってましたが、その中でも本作はストーリーのクオリティが際立っていたように思います。女性地下アイドルにハマるOLとそのドルオタ仲間達のアツい姿を通して、オタク愛をアツく肯定しながら、そこにサスペンス的要素をスパイスしたのが非常に画期的。
オタク愛系としては、他に「トクサツガガガ」「腐女子、うっかりゲイに告る」(これもNHK)も攻めてて良かった。

4位 「グッドワイフ」
海外人気ドラマのリメイクで、常盤貴子主演、1話完結スタイルの弁護士ドラマ。
非常にエンタメ的足腰が強靭な、ハイレベル・ハイクオリティの娯楽作品。
1話完結スタイルながら、各回を縦軸的に貫く唐沢寿明演じる夫との間の夫婦の関係性の物語がまた、見応えバツグン。
キャストでは、特に小泉孝太郎が光ってました。

5位 「SCUM」
現代の格差社会を背景に、普通の若者たちが振り込み詐欺の掛け子としての技量を開花させていく様子を描いた、地上波ドラマとしては攻めすぎの内容。物語の冒頭、世代間格差を強調することで主人公たちの行動を正当化するように見せかけて、最終的にキッチリと落とし前を着けさせた点が、個人的に高評価。
ぜひNHK「サギデカ」とセットで。

後は、NHK朝の連ドラ「まんぷく」「なつぞら」「スカーレット」。
どれも素晴らしかったです。特に「スカーレット」は後世語り継がれるべき名作の香りがするのですが。

ほかにも、「時効警察3」「結婚できない男2」の、変わらぬ高い安定感の面白さ。
水戸黄門的なパターンの繰り返しとそこからの逸脱という遊川脚本の黄金フォーマットを追求した「ハケン占い師アタル」「同期のサクラ」の2本。
「きのう何食べた?」「わたし、定時で帰ります」も気骨あるドラマの作りで良かったと思います。

あとは、見逃せないのが4話完結スタイルのNHKプレミアムドラマ枠で、橋本愛と田中泯をキャスティングしたのが成功の恋愛ドラマ「長閑の庭」、千葉雄大主演による将棋サスペンス「盤上の向日葵」など、充実作が目白押しの一年。こうしてみると、NHKが凄い。

ただ「いだてん」については・・・志の高さは本当によくわかるけど、構成が凝りすぎていて私は付いていけませんでした(特に前半部)。落語家と韋駄天という二人の主人公のストーリーラインの並走、複数の時代/視点/語り手を同時展開させていくストーリーテリングは、それらが互いに交錯するまでは、集中力を保ち続けるのが正直ツラかった。
凄い!!と心の底から持ってかれてしまうような回(いわゆる神回というやつ)が何話かあったのも事実だけど。

けど、このような国民的ドラマで、近現代史を取り上げるという試みは、実は国の将来を考える上で本当に重要だと思う。近現代史を見つめなかったら、そのうち同じ大きな過ちを繰り返すことになると思うので。近現代史は視聴率が取れないからダメ、とか、そんな短絡的な話で本当にいいんですか??って感じ。脱線した。


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