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ナチュラル・ウーマン、笑う故郷 [映画]

南米映画の2本。南米だからマジックレアリスム的、って形容してしまうのもかなり安直な気はしますが(だってもはや南米の専売特許ではない)、マジックレアリスム的な感覚が不意に入り込んでくる語り口が光る2本でした。

「ナチュラル・ウーマン」
チリのサンディエゴを舞台にした映画。恋人の死がきっかけで差別に直面するトランスジェンダーの女性の姿を描いた、いわゆるLGBT映画。主人公のトランスジェンダーを演じている女優さんが本物のトランスジェンダーなのですが、この女優さんが実に魅力的。演技も抜群なんだけど、何よりも、きれいな目に魅了される。

映画のタイトルは、アレサ・フランクリンの有名なYou make me feel like a natural woman、というラインからそのまま来ており、劇中でもこの歌が使われてますが、トランスジェンダーの主人公がこの歌詞を歌うことによって否応無く立ち昇るブルース性は、LGBT映画の本質的なテーマそのものと言っていいと思う。この女優さん、ダニエラ・ベガが素晴らしいのは、一瞬の表情、視線、仕草なんかで、主人公の哀しみ、怒り、タフネスをスクリーン上に文字通り体現してみせている点にある。彼女の演技が絶賛されているのは非常に頷ける。

ただ、この映画は決して重いだけの映画ではなくて、それは茶目っ気を失わない主人公の造形と、自然光が眩しい映像設計によるもの。そして時折インサートされるマジック・レアリスム的映像手法がなんとも絶妙なんである。
主人公が夜のクラブを徘徊するシーンがあるけれど、そのシーンの音響が抜群にかっこいい。後で知ったが音楽を担当したのはマシュー・ハーバート! それ知って俄然サントラ欲しくなった。

個人的評価 5点/5点満点


「笑う故郷」
これはアルゼンチンの片田舎を舞台にした映画。若い時に故郷を離れてスペインに渡り、作家として大成功を納めた男が、数十年ぶりに帰郷したことで巻き起こる悲喜劇。まあ、社会派コメディということになるのだろうか。

ノーベル文学賞を受賞し、大作家の地位を手にした主人公。悠々自適の生活を過ごしているように見えて、実はすっかり書けなくなってしまっていた。そんな主人公の元に故郷の市長(全然面識無い)から講演会のオファーが届き、気まぐれで招待を受けることを決める。

というわけで、世界的セレブとなって凱旋帰郷を果たす主人公と、そんな主人公を迎える田舎の人々。主人公を温かく尊敬の念を持って出迎える人々がいれば、打算から主人公に近づく者もいて、まあ大多数の人たちは単なる興味本位である。幼馴染の旧友や昔のガールフレンドとも再会を果たす主人公。とにかく懐かしい故郷で束の間の気分転換、となるはずが、徐々に主人公の周りで軋轢が生まれていく。

都会的知識人の無自覚な高慢と、地方在住者の野卑や鬱屈。その対比が徐々に両者の緊張関係を高めていくストーリー展開。本作も自然光をふんだんに取り入れた映像設計が美しい。その分、田舎の闇も深いカンジですが・・・。クライマックスはもはやスリラーと言ってよい。抑制されたマジックレアリスム的感性も感じることができて面白かった。

個人的評価 4.5点/5点満点


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